1934年 小林一三の願い

東宝・宝塚歌劇
小林一三筆「清く正しく美しく」扇面。

 一般に「清く 正しく 美しく」は、宝塚音楽学校の校訓であり、宝塚歌劇団のモットーとして知られる。そして東宝もまた、創業者である小林一三の経営理念として、モットー「朗らかに、清く正しく美しく」を掲げる。
 小林一三の詩「初夢有楽町」に現れたこの言葉は、東京宝塚劇場の開場を祝って贈られたエールのようなものと言える。一方、同じ1934年頃に執筆された一文「演劇経営作戦」では「朗らかに 清く 正しく 美しく」の語がもう少し広い意味で使われている。
「私の最大目的は、生活の単位を個人より家族に、従って其娯楽も亦個人より家族に、即ち、かくの如くにして、家族より家庭に、更に、家庭より公共に、而して大衆に、全国民に、──其旗幟は簡単にして鮮明である。朗らかに、清く、正しく、美しく、これをモットーとする我党の芸術は即ち高尚なる娯楽本位に基くところの国民劇である。」
と述べている。この文で「朗らかに、清く、正しく、美しく」は、宝塚歌劇団の生徒に向けて発せられているばかりではない。宝塚歌劇の公演を通じて、それをご覧になったお客様御自身が「朗らかに、清く、正しく、美しく」なり、そして社会全体が「朗らかに、清く、正しく、美しく」なっていくことを願う、一三の想いがあったと伺える。
 小林一三は、人々が「朗らかに 清く 正しく 美しく」暮らせる社会を、宝塚歌劇の公演や東宝の演劇・映画を通じて、創っていこうとしていたのである。